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宮崎地方裁判所 昭和29年(わ)191号 判決

被告人 長友長三郎

明一九・一・二二生 会社重役

酒匂清

大四・六・一五生 会社重役

主文

被告人両名を各懲役二年に処する。

訴訟費用中、証人寺師宗春、同水永祐夫、同谷崎栄、同大野英男、同野中幸三郎、同小窪忍、同久木田寅太郎、同平田兼人、同薬師寺寿彦、同上野繁一、同中村藤平、同坂元熊市、同谷口頼敏、同土屋兼次郎、同南一吉、同緒方澄子、同鬼束理志、同中村竜夫、同甲斐善平、同橋口重則に各支給した分は被告人長友長三郎の負担とし、国選弁護人江川庸二、同池田武雄、証人小野博(但し昭和三四年一〇月二一日出頭分のみ)、同菊地茂行こと長友茂行(右同日出頭分のみ)、同児玉美夫に各支給した分は被告人酒匂清の負担とし、その余の分(但し、証人田中連蔵、同嶽喜太郎に各支給した分及び、同松浦範利、同竹山正樹、同貴島兼利、同菊地茂行こと長友茂行に対する各昭和三一年二月二〇日出頭分、同竹山正樹、同貴島兼利に対する各同年八月六日出頭分、同太田盛好に対する昭和三三年二月七日出頭分に夫々支給した分を除く)は被告人両名の平等負担とする。

本件公訴事実中、被告人長友長三郎に対する別表第三の番号1ないし28、被告人酒匂清に対する同表の番号1ないし21及び29ないし32記載の各詐欺の点についてはいずれも当該被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名及び倉本正見は昭和二七年五月頃被告人酒匂の考案になる不動産給付業即ち当時の全国的な住宅不足に着眼し、庶民に対し住宅を供給するという名目の下に資本金のないまま、契約者に新規契約者を順次紹介させて契約者をいわゆるねずみ算式に増加させ先ず第一契約者は一口一〇〇、〇〇〇円につき契約料五、〇〇〇円を支払つた後、第二ないし第七の新規契約者六名を紹介し、その六名が各契約料を支払つてから五〇日経過後に始めて第一契約者に一口について一〇〇、〇〇〇円相当の不動産を給付し、次いで右条件を履行した右第二ないし第七の新規契約者に対し順次同様の給付をなし、給付を受けた各契約者に給付金額一口について一〇〇、〇〇〇円及びその利息を加算した金額を月賦で順次償還させることとし、その給付資金は一口の契約料五、〇〇〇円中の二、〇〇〇円ないし四、〇〇〇円宛及び右月賦償還金をもつてあて、給付以外の人件費、その他の全営業資金は一口の契約料五、〇〇〇円中一、〇〇〇円ないし三、〇〇〇円宛をもつてあてるという仕組みの事業を創業しようと相謀り、その頃将来契約者の募集にあたつて契約者に事業の堅実性についての信頼感と安全感とを与えるためと創業当初の必要資金を提供してもらうために、宮崎市において知名の事業家で、元宮崎県会議員山口音五郎に右事業機構について説明し、これによれば当初創業に必要な若干の資金を出してもらえば、契約者の紹介によつて事業は順次確実に拡大発展して行き、その払込む契約料だけで運営して行けるものであるからと説得につとめ事業に関与するように懇請してその承諾を受け、さらに元代議士鹿島透、弁護士砂山博嗣、同佐々木曼に顧問就任方を依頼して承諾を得、当初は匿名組合方式で経営することをきめ、同年七月一四日なお数名の知人等を勧誘してその賛同を得て匿名組合日新不動産相互社を結成し、山口を理事長とし、被告人長友は専務理事として経理事務並に一般文書の調査事務等を担当し、倉本は常務理事として経理事務、人事関係の事務等組合の一切の事務を事実上総括主宰し被告人酒匂は評議員兼業務部長として契約者の募集、募集にあたる業務部員の指導等に従事することとし、組合の定款上は基金一、〇〇〇、〇〇〇円と記載しながら、実際は山口等の出資になる数万円の営業資金のほかは無基金のまま本社を宮崎市橘通五丁目八八番地(その後同市高千穂通二丁目四六番地に移転)に置き、営業を開始し次いで被告人両名及び倉本は互に相謀り右事業を匿名組合方式から会社組織に組み換えようと企画し、山口を説得して同年一二月一日右組合を改組して登記簿上発行株式総数二、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円、発行済株式数六〇〇株の株式会社日新不動産相互社を設立し、同会社において右組合の事業及びこれに関する一切の権利義務を承継することとし、契約料を一口一〇〇、〇〇〇円について一〇、〇〇〇円とし(その後昭和二八年九月頃一五、〇〇〇円と改訂し、なお同年一二月頃別途に契約料二五、〇〇〇円のものを新設)山口を取締役社長(その後甲斐善平に替る)とし、被告人長友は専務取締役(昭和二八年六月頃以降は取締役として経営に参画)倉本は常務取締役、被告人酒匂は新設した鹿児島支社長にそれぞれ就任し、被告人長友及び倉本は前同様の各事務を担当し、被告人酒匂は鹿児島支社における一切の事務を総括主宰しその後本社に戻り調査部長として給付物件の価格の調査等の仕事に従事し、昭和二八年三月三一日同社を退社したものであるが

第一、被告人両名は倉本と共謀のうえ、前記不動産給付事業は組合又は会社に給付のための資金が用意されておらず、新規契約者の払込む契約料の一部と給付を受けた契約者の月賦償還金とに給付資金の財源を求めるいわゆる自転車操業による経営機構であるからたとえ契約料の増額を図つても事業の存続は将来契約者がねずみ算式に無限に増加発展して行き、従つて契約者の払込むべき契約料が幾何級数的に増加して行くこと及び前記の月賦償還金の回収が滞りなく確実に期限に履行されることを前提としているものであるが、このような前提は単なる計数上の観念であつて事実上は実現不可能な事柄であるから、まもなく新規契約者が予定のように増加しなくなり、事業は行きずまりに逢着して給付資金を確保することができず、約定の給付は忽ち履行不能に陥るものであることを認識していたにも拘らず、前記の事情を隠秘して、右組合又は会社は健全且着実な事業を営んでおり、これと契約を結び、所定の条件を履行すれば所定の期限に確実に約定の不動産の給付を受け得られるもののように装い、新聞広告を利用し、又は事業案内と題したパンフレットを作成配付して、同社は契約者にとつて最も有利な条件で当時の住宅不足に悩む大衆の要求にこたえるための不動産給付事業を営んでおり、有力且知名の人々の運営する健全確実な会社である旨宣伝広告につとめて契約者を募り他方、昭和二七年一一月一日宮崎県都城市に都城営業所、同年一二月一日鹿児島市に鹿児島支社、同二八年二月一日宮崎県日南市に日南営業所、同年三月五日同県延岡市に延岡営業所をそれぞれ設置し、契約者の募集にあたる業務部員を雇入れこれを指導教育して、本社及び右支社営業所に配置し、その業務部員の指導教育にあたつては、日新不動産相互社は一、〇〇〇、〇〇〇円の基金又は資本金を有し、また払込まれた契約料の八割を給付資金にあてるために確実に積立てる機構になつており、宮崎県の県会議員、教育委員、資産家、又は元代議士、弁護士等の信用ある役職員及び顧問によつて運営される極めて確実且健全な事業を営んでいるものであるから事業は着実に継続発展して行き、約定の給付日には確実に給付を履行するとの趣旨を述べて契約者を信用させるように指示し、或はまた、契約約款の説明に際しては右約款は契約者に非常に有利なものである旨強調すると共に、規定の契約条件をそのまま説明するときは該条件の達成の困難を慮り、契約するものが少いであろうことを考え、或は契約者が組合又は会社に紹介すべき新規契約者数を二人であるような誤解に陥しめるような話術を用いて加入を勧誘するよう指示したり、或は規定の新規契約者を紹介することができないときは社の方で募集した新規契約者をもつて補充して給付を履行するようにするからとの旨を申し向けて契約者を募集するように指示したりなどして、業務部員を督励して契約者の募集にあたらせ、あわせて約款所定の既契約者の紹介による新規契約者の増加を計り、別表第一記載の通り昭和二七年七月二八日頃から同二八年三月三一日頃までの間前後二六五回にわたり、被害者らをして日新不動産相互社は健全且確実な機構で事業を営んでおり、同社の業務部員又は既契約者らの説明する給付を受けるための条件を履行すれば給付期限に確実に不動産の給付を受け得られるものと誤信させて、同社との間に契約約款に則つて契約を締結させ、いずれも右契約の契約料名義で五、〇〇〇円ないし一〇〇、〇〇〇円宛、合計二、八九八、〇〇〇円を同社に払込ませてその交付を受け、これを騙取し、

第二、被告人長友は倉本と共謀のうえ、前同様認識していたにも拘らず右会社において当時すでに履行すべき期限が到来した給付金額及び未払経常経費の総額が多額にのぼり、いよいよその支払に窮したので、なお多数の新規契約者を募集して契約料を払込ませ、一時その窮状を免れようと考え、その新規契約者の契約料をもつて従来の右未払金に充てた場合、新規契約者に対する将来の給付は到底これを履行し得ない経理状態にあつたにも拘らず、その事情を隠秘して前同様装い、前同様の新聞広告又は事業案内などを巧用して前同様広告宣伝して契約者を募り、新たに、昭和二八年四月一日宮崎県児湯郡高鍋町に高鍋営業所、鹿児島県指宿市に指宿営業所、同県鹿屋市に鹿屋営業所、同県川内市に川内営業所、同県枕崎市に枕崎営業所、同年八月一日宮崎県串間市に福島営業所、同年一〇月一日同県西都市に妻営業所、同月四日大分県津久見市に津久見営業所をそれぞれ開設し、さらに業務部員を雇入れて前同様指導教育し、これを督励して契約者の募集にあたらせ、且つ約款所定の既契約者の紹介による新規契約者の増加を計り、別表第二記載の通り、昭和二八年四月三日頃から同二九年三月一五日頃までの間前後二五三回にわたり、被害者らをして前同様誤信させて右会社との間に前同様契約を締結させ、いずれも右契約の契約料名義で、五、〇〇〇円ないし一三〇、〇〇〇円宛、合計五、二九〇、〇〇〇円を右会社に払込ませてその交付を受け、これを騙取し、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人酒匂清に対する確定裁判)

被告人酒匂清は昭和二八年八月五日福岡高等裁判所宮崎支部で詐欺罪により懲役一年に処せられ三年間右刑の執行を猶予せられ該裁判は同月二〇日確定したものであるが該事実は検察事務官作成の同被告人に対する前科調書により明らかである。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為は各刑法第二四六条第一項、第六〇条(被告人酒匂清についてはなお刑法第四五条段段、第五〇条)に該当するところ、右は同法第四五条前段の併合罪であるから、各同法第四七条本文第一〇条に則り併合罪の加重をなした刑期範囲内において被告人両名を主文第一項掲記の刑に処し、訴訟費用については各刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して被告人両名にそれぞれ主文第二項掲記のとおり負担させることとする。

(無罪部分の説示)

本件公訴事実中、主文第三項掲記の部分については犯罪の証明が十分でないから刑事訴訟法第三三六条により無罪とすべきものとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 福山次郎 野口昇 松下寿夫)

(別表略)

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